本当に愛おしい君の唇
 治登が奥の席に通され、椅子に座ると、


「……疲れちゃったな」


 と呟く。


「あたしも」


「君は普通のOLだから、毎日が淡々としてるだろ?」


「ええ。でも、その分、疲れるわね」


「疲れるって、何が?」


「あ、そうか。治登さんって下働きって経験したことないから、分からないわね」


「うん。俺は起業家一本で来たし」


「案外そういった人の方が脆(もろ)いのよね。挫折に」


「そうかもね。ある意味じゃ、この年になっても世間知らずで通ってるからな」


「あたし、そういう人に惹かれることがあるの。王子様願望っていうのかしら?」


「王子様願望?君は面白い言葉使うな」
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