本当に愛おしい君の唇
 治登がそう言って笑い出す。


 直美も釣られて笑い、その後、テーブルにオーダーを取りにやってきたウエイトレスの方に目を向けた。


「ステーキのセット、二人分お願い」


 治登が手元にあったメニューに一瞬目を落とし、言った。


「お飲み物は?」


「ビールをジョッキで二杯」


「かしこまりました。先にお飲み物の方をお持ちいたします」


 ウエイトレスがそう言って、注文品を手元の端末に打ち込み、厨房に向けて歩き出す。


 治登は思っていた。


「古賀原は当分、寒いところに居続けるだろうな」と。


 札幌支社には以前行ったことがあり、治登はそこの土地の寒さに改めて驚いていたのだ。


 夏場に行っても冷え込んでいて、車がないと到底移動できない。

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