本当に愛おしい君の唇
 大多はいくら目先だけの商売は上手くても、会社を世界展開するだけの器量が残念ながらない。


 その点、治登が社長職に収まり、副社長として――いわゆるナンバーツーなのだが――樺島が社を引っ張ってくれれば、それにも増していいことはないのだ。


 治登は毎日、専務室で書類以外にもいろんな媒体を使って情報を仕入れていた。


 経済紙やビジネス誌、それに即座にして世界情勢が分かるインターネットやモバイルなど、情報源はいくらでもある。


 そういったものを上手く使いこなしながら、治登は日本経済の情勢を分析していた。


 現段階での分析では、しばらくの間、消費者も生活必需品以外は買い控えをするものと思われる。


 だから消費は伸びないと考えられた。


 治登は食前酒の意味で届けられたビールのジョッキに口を付けて、


「やっぱ春夏はビールだね」


 と言い、直美にも勧める。


「美味しいわ」
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