本当に愛おしい君の唇
 着ていたワイシャツに愛人である女子大生の中谷佳織(かおり)という女の付けている香水の匂いが移っているようで、本人は無造作に風呂場の汚れ物入れの中にそれを入れている。


 洗濯機を回すのは直美の家事の一環だから、毎日回しているようだった。


 特に子供たちは新陳代謝(しんちんたいしゃ)が激しいので、汚れ物は常に洗濯しているらしい。


 治登がコーヒーを飲みながら、


「子供って可愛いだろ?」


 と鎌を掛けるようにして、訊いてみる。


 彼女が頷くのが分かって、だ。


「ええ。あたしもたとえ主人と別れたとしても、親権はちゃんと持って子供たちを育てるつもりだから」


「俺のところと同じだな。夫婦で上手くいってないってことに関してはね」


「そうね。……治登さん、いつから歯車が狂い出したの?」


「俺?俺は結婚してから数年経って、有希の不妊が分かってからだな」


「不妊治療はしたわけ?」
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