本当に愛おしい君の唇
 金を貯(た)めるよりも使う方が得意なのだ。


 それは互いに分かっている。


 実際、今夜二人で泊まるホテルはとても料金が高い。


 ホテルの建物に入って早々、治登が、


「暑いな」


 と言って、着ていたコートを脱ぐ。


 四月に入り、関東地方は多少の寒の戻りがあったにしても、気温が上昇している。


 治登はフロントで、


「部屋を一つ用意して」


 と言った。


「かしこまりました」


 髪に白髪の混じった初老のホテルマンがそう言い、キーを手渡す。


 こういった高級ホテルには大概、ホテルマン以外に客室案内人――いわゆるコンシェル
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