まっすぐに。
22歳ののぶちゃんは美容師さん。
お兄ちゃんのお店で働いている。
お店は、静かな住宅街の中にあった。
一度、お客さんで行きたいから場所教えて!って行って、お店の前を車で通ってもらったことがある。
本当に静かなところで、美容室がその街に溶け込んでいて、危うく見逃すところだった。
その小さな美容室は、真っ青な看板に白い文字で『EARTH』と書かれていた。
その文字を見るので精一杯で、
「へぇ…」
としか言えなかった。
私は、美容師さんと付き合ったことがなかったから分かんなかったけど、世の中の美容師さんの彼女はきっと素敵な朝を向かえてると思う。
「あゆちゃん」
甘えた声で後ろから抱きついてきて、頭を撫でてくれる。
のぶちゃんの細くて華奢な指が、私の髪に引っ掛かる。
「うわっ。ひどいなぁ。めっちゃ絡まるやん。」
のぶちゃんが眉間にしわを寄せて言う。
「しょうがないよ〜。あれだけ、ごろごろ転がり回ってたら、こうなるの!」
優しくぽんぽんってのぶちゃんが頭を叩いて立ち上がる。
自前の美容師セット?
ケースに入ったコームを取ってきた。
丁寧に丁寧に、絡んだ髪の毛をとかしてくれる。
鼻歌を歌いながら、私の愛する人はご機嫌だ。
しゃっしゃっしゃつ。
くしの音。
ベッドにぺたんと座った私は、猫の用におとなしい。
そして、のぶちゃんは今度はドライヤーを取ってきた。
あったかい温風とぶおーっという音。
のぶちゃんの指。
あっという間に、私の髪はきれいにセットされていた。
振り向いて、「ありがと」とにっこり微笑んで、のぶちゃんに抱きついた。
私たちは、お兄さんでありお姉さんであり、お互いに子供だったり、大人だったりする。
どの立場もしっくりくる。