UP TO YOU!!
生温い風が、身体を包む。
ライブハウスの中の熱気のせいで多少は涼しく感じたが、気持ちのいい風とは言えなかった。
「あの~」
家路につこうとしているところを見知らぬ2人組の女に話しかけられた。
「あのっ、もしかしてなんですけど、キョウの片割れさんですかっ?」
大きく巻かれた明るい茶色をした髪。
瞬きする度にバサバサと揺れる睫毛。
キョウは呼び捨てで、目の前の俺のことは「さん」付けか。
まあ、別にいいんだけど。
「はあ。」と曖昧に答えたのにも関わらず、「キャー!」と女たちは大袈裟に騒ぐ。
「キャップかぶってるから、もしかしたらって思ったんです~
そしたら、やっぱりそうだった~」
「え?キャップ?」
「有名ですよ、キョウの片割れは顔隠すようにキャップかぶってるって。
にしても、本当に同じ顔!イケメ~ン!」
キャップの中をのぞきこまれたので、帽子のツバで更に顔を隠した。
すると、「照れ屋~かわいい~」と、また甲高い声で言われた。
はあ、盛り上がる目の前の2人には分からないほどの小さなため息をつく。
これだから嫌なんだ。
前にもこんなことがあった。
それ以降、トラジャムのライブに来る時は目深にキャップをかぶって、
京介のファンに気づかれないようにしていたのに。
ばれていた。
また小さくため息をつく。
けれど、女たちはそんな俺の気持ちを無視して、
馴れ馴れしく「写真とってー」と携帯カメラを向けてくる。
俺と写真撮ってどうするんだよ。
困っていると、桜井さんが看板をしまうために表に出てきた。