UP TO YOU!!


生温い風が、身体を包む。
ライブハウスの中の熱気のせいで多少は涼しく感じたが、気持ちのいい風とは言えなかった。

「あの~」

家路につこうとしているところを見知らぬ2人組の女に話しかけられた。

「あのっ、もしかしてなんですけど、キョウの片割れさんですかっ?」


大きく巻かれた明るい茶色をした髪。
瞬きする度にバサバサと揺れる睫毛。

キョウは呼び捨てで、目の前の俺のことは「さん」付けか。
まあ、別にいいんだけど。


「はあ。」と曖昧に答えたのにも関わらず、「キャー!」と女たちは大袈裟に騒ぐ。


「キャップかぶってるから、もしかしたらって思ったんです~
そしたら、やっぱりそうだった~」

「え?キャップ?」

「有名ですよ、キョウの片割れは顔隠すようにキャップかぶってるって。
にしても、本当に同じ顔!イケメ~ン!」


キャップの中をのぞきこまれたので、帽子のツバで更に顔を隠した。
すると、「照れ屋~かわいい~」と、また甲高い声で言われた。

はあ、盛り上がる目の前の2人には分からないほどの小さなため息をつく。

これだから嫌なんだ。


前にもこんなことがあった。
それ以降、トラジャムのライブに来る時は目深にキャップをかぶって、
京介のファンに気づかれないようにしていたのに。
ばれていた。
また小さくため息をつく。

けれど、女たちはそんな俺の気持ちを無視して、
馴れ馴れしく「写真とってー」と携帯カメラを向けてくる。

俺と写真撮ってどうするんだよ。
困っていると、桜井さんが看板をしまうために表に出てきた。



< 14 / 28 >

この作品をシェア

pagetop