加納欄の奪還 シリーズ25
もちろん、家に戻れるわけもなく、あたしがたどり着いた先は、南署だった。

薄明かりの部屋に、呆然と歩いて行き、ソファーにポスンと、座った。

あたしは、盗聴器を握りしめた。

「聞いてる?今、南署にいるわ……。祥子さんは、無事なんでしょうね。少しでも祥子さんに傷がついてたら、あんた達、命が無いと思いなさいよ……」

あたしは、怒りで震える声を抑えながら、盗聴器に向かって話した。

もちろん寝るなんてことは出来なかった。

ただ、無意識のうちに、時間が過ぎ、いつの間にか、朝になっていた。




「おはようございます」

各署員の人達が、集まりはじめた。

あたしの頭は、先程の出来事がエンドレスで流れ、後悔の念でいっぱいだった。

なぜ祥子さんを、助けることが出来なかったのか。

チャンスはあったはずなのに。

考えを巡らせるが、祥子さんの喉元に突き付けられた、情景を思い出し、首を何度も降った。

気分は最悪だった。

こんな気分の時は、”カシミア”の紅茶が飲みたくなる。

大山先輩に、初めて出会って、連れて行ってもらった喫茶店。

体調良いと、苦い味がして、体調が悪いと、美味しい味がする紅茶を、マスターが出してくれた。

あの時は、まずかったけど、今飲んだら、サイコーに美味しいに違いない。

あたしは、あの紅茶を思い出しながら、コーヒーを取りに向かった。

そこへ、大山先輩が、出勤してきた。

「二日酔いの顔してるな。何時まで付き合ってたんだよ」

「……日付は変わってました……」


言いたい……。


「そんなに付き合ってんなよ。あいつ自分が非番だってわかって飲んでるだけなんだぜ」

「い、言いましたよ。でも、しつこくて……」

何度も帰ろうと促しても、あと少しと、なかなか帰らなかった祥子さんを思い出し、微妙な笑いをしてみせた。


大山先輩……あたし。


「コーヒー飲んで来ます」

「あ、俺も行く」

大山先輩と、随時用意されている、コーヒーメーカーの場所へ歩いて行った。

あたしは、コーヒーを一口すすると、自分のデスクへ向かった。

デスクにコーヒーを置き、椅子に座っても、することがなかった。


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