10日間の奇跡
「これが俺の10日間だ。」

親父は笑った。

俺も語ったこの10日間を。
俺の10日間の全てを…。

そしてしばらく沈黙が流れた。

親父がふいに言った。

「お前にも愛した人がいたんだな……。亡くしてしまったんだな。」

「そんなに愛していたのにどうして──…。

母さんが死んだ日に来なかった!?」

親父は窓の外を見て言った。

「うちの会社には支社も含めて5万の人が働いている。」

「それがどうした!?母さんは親父を待ってたんだ!!!」
親父は俺の方を向いた。

「あの日は会社の未来を決める大切な会議があったんだ。

あの会議を俺が欠席すると5万の社員が路頭に迷ってしまう。」

そう言った親父は小さく見えた。

親父はいつの間にか社長にまでなってたんだな…。

俺は親父の何も知らなかった。

会社トップの責任があったんだ。
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