蜜月 -love is blind-【BL】
 刃傷沙汰になるのはマズイと思ったのか何なのか。

 険しい顔をしたまま離れていくそいつは、「勝ったと思うなよ」とかって、勝手な捨て台詞を吐いて屋上を出て行った。

 残った奴らもそれに続いて去って行く。

 そいつらの足音が聞こえなくなってから、俺は盛大に溜息を吐いた。

 ピリピリとした痛みの左頬をそっと触ってみると、細く赤いラインが指に付く。


「信じらんねー……」


 これくらいの喧嘩に刃物って、どうかしてる。

 遊び仲間と居るときに絡まれることは何度もあるけど、カッターなんて持ち出すヤツは初めてだ。


「あー……痛ってぇ……」


 もの凄い痣になっているであろう腹をさすりながら、俺は這うようにして鉄扉の脇の壁に背を預けて座る。

 苛々を解消するどころか、余計に溜まっただけだ。

 軋むように痛む身体が恨めしい。

 1人で5人を相手にするのはやっぱりキツイ、とか、どうでもいいことを考えながら、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。

 そこから取り出したのは、携帯とぐしゃぐしゃになった煙草、ライター。

 結構長い時間屋上にいる気がするけど、まだ16時を回った所だった。

 パッケージ同様、ぐしゃぐしゃになった煙草を一本取り出して、火を点ける。

 ここが学校だとか、先生に見つかったらとか、そんなのはもうどうでも良くて。

 どこからともなく聞こえる部活動の声をBGMに、思い切り肺に吸い込んだ煙を吐き出した。
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