飛べない鳥
葵の大きな瞳が、俺を見つめる。



もう完全に夕日は沈んでしまった。


空には月が顔を出していた。



『忘れてねぇの?じゃあ何で彼女が出来るんだよ!?』



静かな駅に、葵の大きな声が響いた。



『忘れようとしたから…付き合ったんだよ…』



すると葵が立ち上がり、俺の胸ぐらを掴んだ。



『お前は唯の今の気持ち分かるかよ!!ずっとお前の事想ってんのに、お前はその気持ち無視して他に女作りやがって…』



俺は抜け殻のようになった。



『唯は…唯に逢いたい…』


『お前なんかに逢わせられねぇよ。今、唯がお前に逢ったら、唯は泣いてしまう』



俺は葵の腕を握り、
声を振り絞って言った。


素直な気持ちを─…




『唯に…逢わせて…』





葵は俺の目を真っ直ぐに見て、胸ぐらを掴んでいた手を離した。
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