飛べない鳥
不気味なくらい静かなロビー。


真っ暗な病院。


そして…唯の温もり。


今、俺の中には唯がいる。

今になって緊張してきた。

更に速くなる鼓動、
更に赤く染まる頬。



それと…脳裏にちらつく、杏の笑顔──…



俺は唯を抱きしめていた腕を離し、一歩身を引いた。


『ごめん!俺何やってんだろっ…』


俺は髪の毛を掻きながら、唯に笑顔を見せた。



『どうかした?遥斗?』



違うんだ…杏の姿が浮かんでくる…



『俺…ちゃんとお別れしなきゃダメだよな…』



『誰にお別れするの??』


唯は顔を傾けて、俺に聞いてきた。


俺は唯に背を向け、
下を向き、こう言った。




『…彼女…』




『…彼女?』




俺、ちゃんと決着つけるよ。
素直じゃない自分に。


決着がついたら、もう君以外の人を愛さないよ─…
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