飛べない鳥
分かったかな?
電話をした相手が俺だって。

うっかりしていて名前を言うのを忘れてしまっていた。


唯は分かったかな?



『遥斗?』



唯に名前を呼ばれるのは初めてではないのに、いつもより緊張していた。


ドクンっと胸が弾む。


元気よく、煩く、弾む。


まるでメロディーを奏でているようだ。



『うっ…うん』



『電話くれてありがとう』


『うん…』



言葉が浮かんでこない。

唯の声が耳に響き、耳が熱い。


どうしたんだ?俺…



『いつでも電話してね』



『唯も…電話してくれていいよ…唯は…特別だから』



『分かった!暇なときかけるね』



俺と唯の距離は縮んでいる。


確実に。


少しずつであるが、ちゃんと唯に近付いている。


だから、《特別》と言えたのだろう。





─…もう目の前には、暑い夏が迫ってきていた。


暑い…暑い夏が…
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