飛べない鳥
泣きたくないのに、涙は流れる。


悲しくないのに、胸が痛い。


これって強がりかな?



するとポケットの中に入っていた携帯が鳴り出した。

俺は携帯を取りだし、相手を確かめた。


携帯に《唯》という文字。

もし、さっきまでのことがなかったら俺は急いで出ていただろう。


でも今の俺は出来ない。


俺は電源ボタンを強く押し、そのまま携帯の電源を切った。



真っ暗になった携帯の画面。

まるで俺の心を写し出しているようだった。



俺は涙を手で拭い、景色に目をやる。



夕日が地平線に沈んでいく。


俺はずっと見ていた。


このまま夕日と共に消えたらいいのに、と思いながら俺はずっと見ていた。



世界にこんな場所あったんだ。


木が嬉しそうに揺れている。


その時だった…


俺が彼女と会ったのは。


今思えば、この時出会った彼女は誰だったのだろうか?
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