飛べない鳥
俺は一歩一歩、ドアへと進む。


ドアノブを掴み、押して入っていく。


母親に言われた通り、

『すみません…』

と言いながら、泣きそうな声で叫んだ。


ママ?

僕はママに必要なかったのかな?


だから、ここに僕を預けたんでしょ?


ママ…あのゆびきりは?


約束は?



俺が物心ついた時に、初めて知った。

ここは幼稚園でなく、
施設だと言う事に──…



ママは…僕を捨てたんだ。

俺はよく空を眺めていた。
空を自由に飛ぶ鳥を見ていた。


鳥になりたい。


空を飛びたい。


だって、鳥になったら、
簡単にどこにでも行けるでしょ?


『ママ…まだかな…』


母親の顔が忘れていく。

ただ覚えているのは、
あの笑顔と、


俺と同じ左の目の下に、ホクロがあるということだけだった。
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