飛べない鳥
『遥斗君?何見てるの?』

施設の先生が、俺の隣に座る。


『ねぇ先生?何故鳥は飛べるの?』


俺は鳥の方を指差しながら、先生に聞いた。


『それはね?鳥さんには翼があるからよ?』


『つばさぁ?僕にも飛べるかなぁ?』


先生は、笑いながら、俺を抱き寄せた。


『遥斗君にはちょっと無理かな…遥斗君の背中には大きな翼がないからね…』


『つばさ…欲しいな…』



俺は小さい頃から翼が欲しかった。


そしたら母親にも父親にもヒナにも、会えそうだから…


俺は、まだ暗い闇に染まっている。


ずっとこのまま。

きっと永遠にこのままだろう。


母親は、約束を守ってくれなかった。

母親は、俺を捨てたんだ。



────…………


─ピピッ… ピピッ…


静かな部屋に、目覚まし時計の音が鳴り響く。


俺はゆっくり瞼を開け、
目覚まし時計を止めた。


俺の心には明かりはないが、部屋には明かりが溢れている。
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