飛べない鳥
俺はその言葉を聞いても、驚いたりしなかった。



響が言っていた事を思い出していた。



《菊地唯は男に興味がない》



『…ふ~ん』



太陽が雲の合間から顔を出した。



『何でとかって聞かないの?』



『聞いてあげようか?』



菊地唯は少しだけ頬を膨らませ、違う方を向いてしまった。



…可愛い。



『あっそ…俺そろそろ戻るわ』



俺は立ち上がり、ドアノブに手をかけた。



『えぇ!?』


菊地唯は焦りながら、
俺を目で追う。



─キィー……



『また…話出来るよね?』


背後から聞こえる…



菊地唯の甘い声──……



『俺はいつもここにいる。じゃあな…唯』



『初めて唯って呼んだ…
じゃっじゃあね…遥斗…』



──…バタンッ……



虚しく残る、ドアが閉まった音。


俺は初めて菊地唯を、唯と呼んだ。



そして菊地唯は初めて俺を遥斗呼んだ──……



今日は今までで一番いい日かもしれない。
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