星の唄
結衣は奏空に笑顔を向けた。
結衣の話は奏空達からすれば、綺麗事にも聞こえていた。
結衣は、奏空のように両親や足を失っているわけではない。
鈴音のように無理矢理…道具のように使われたわけでもない。
奏のように両親の記憶も少なく、選択肢がなかったわけでもない。
兄の結樹でさえも、いつも明るい道を歩いてきたわけではない。
結衣は自分で選んで被験者になり、家族にも大切に見守られてきた。
ずっと幸せの中にいた。
その結衣に本当の哀しみや苦しみなんて解るはずがない。
そう思われても仕方がないことだった。
「哀しみや苦しみを大切な人には渡せないよ。」
奏空は結衣に笑って見せたが、眼は哀しい色をしていた。
「星の唄…。」
「え…?」
突然、結衣は前置きもなくぽつんっと言葉を零す。
「星の唄。奏空は楓さんに教えてもらったんでしょう?」
「……?そうだけど…?」
全く脈絡のない話に奏空は首を傾げる。
結衣の表情からして、彼女もふざけているわけではない。
「奏空はいつ教えてもらったの?」
「いつ……って。」
突然何故そんなことを聴かれるのか全く奏空には解らなかった。
奏空以外にも結衣の意図が解るはずもなく、同じように首を傾げる。