華の咲く場所
「でも、お部屋くらいは何とかならないのかしらねぇ」

暗く淀んでしまった気分に浸っていたくなくて、わざと声に出して、明るく言ってみる。

いくらなんでも、ここまで狭いと、店に飼われている家畜にでもなったようで、いい気分がしない。

・・・まぁ、確かに飼われているのだけど。

地位が上がれば、もっと広くて快適な部屋へ移動できるのに。そんなことを思っていた時だった。



「麗蝶様、よろしいですか?」

扉の向こうから、こちらの機嫌を窺うような声がした。

・・・何かしら。

女将の使いである茶英の声ということには気づいたが、なにぶん、様子がおかしい・・・気がする。

茶英はまだ15かそこらの少年と言っていいような子だったけれど、いつもこの店の底辺にいた私に対して、無愛想な顔で、言葉は丁寧でも、無愛想に私に話しかける。

それがどうしたことか、私に対する今の呼びかけは、まるでとんでもなく上の座にいるお姉さまなどに呼び掛けるような声音だった。

また、何を考えているのかしら、茶英は・・・私をからかう新手の冗談かしら・・・それとも、単に部屋を間違えているだけかしら。

「はい?何のご用でしょう。」

怪しみながら恐る恐る部屋の扉をあけると、もちろん茶英はそこにいたのだけれど、そこには無愛想さはなく、恭しく私に頭を垂れ、言った。

「お部屋の移動のお手伝いをさせていただきにまいりました。失礼いたします。」

そう言って勝手に私の部屋に入って、ちゃきちゃき準備を進めて、勝手に私の私物をまとめてしまう。

・・・といっても、鞄一つ分にも満たないくらいしかなくて、他は全部店のものだけど。




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