華の咲く場所
「さぁ、参りましょう、ご案内いたします。」

そこまで勝手にことを勧められたところで、ようやく我に帰る。

「ちょ、ちょっと待って!どうしたっていうのです、一体・・・!部屋の移動って、どういうことです!?」

私の反応を、茶英はびっくりしたような顔で見てきた。

「おや、紅藤様からお聞きでないですか?」

「は?紅藤様?」

さっきまで考えていた、忘れようとしていた男の名前を出されて、驚くほど自分の心が揺れる。

「紅藤様より、麗蝶様を紅藤様付きにしろ、ということで承りました。このことで、麗蝶さまの地位が上がれましたので、お部屋の移動が可能となったのです。」

「え?そんなことができるの!?」

「はい。まぁ特別ですが。その分、紅藤様には追加料金をお支払いいただいております。」

追加料金、だと?なんだそれは、あのお人は、そんなにすごいお人だったのか?

ひょうひょうとして何を考えているのか読めないような人だから、何をしている人なのか、全く推し量ることができなかったのだけど。

突然のことに一人の世界に入りきり考えをめぐらす私に、茶英は一瞬いつもの茶英に戻って言った。

「貴方には身に余るほどの光栄な出来事なんですから、しっかりと受け止めるがよいでしょう。さあ、さっさと動いて下さい。お部屋の移動ができないでしょう」

そして廊下に出ると、先程のような・・・他の女たちに接しているような態度に戻り、さっさと歩いて行ってしまった。

「・・・!待って・・・!」

置いていかれる、と気付いて小走りに駆けて追い付いた私だったけれど、それをわかっているはずのに、茶英は少しも歩を緩めようとはしなかった。

・・・中身はいつもの茶英だと理解した瞬間だった。



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