華の咲く場所

『ざわっ』

私が店に入って案内されたのは、一位の座のお姉さましか入ることを許されなかった、お得意様専用の個室だった。

店の中に入ると、まだ開店して間もないからか客は少なく、店の女たちが私の存在を認めてざわめきを作り、個室に入るまでずっと聞こえてきた。

うまくやったわよね、ちょっと美しいからといって、相当腹黒いのじゃないのあの女、雑魚は相手にせず上客には簡単に股を開くのね・・・。

聞こえてくるそんな野次に、女はこういうどす黒さを隠すために美しく着飾るのではないかとすら思ってしまう。

そんなものが私の耳に入らないように、私が他の女からは見えないように、茶英は私を隠すように立ち、足早に個室まで案内し、扉を閉めてくれた。

「今、飲み物と果物などをお持ちします。紅藤様がいらっしゃるまでは、存分にくつろがれてください。」

茶英の変わりようが心地悪かったりでも嬉しかったり変な気分に陥りながら、初めて入ることを許されたその豪勢な個室をぐるりと眺めまわしてしまう。

紅藤様は、自分以外の客を取るなと言って、それが結果的に彼が追加料金を払うことになって、私はそのために位が昇格した―――しかも、店で一番高いくらいの女、一位の座まで。

『お前を、この店で、いいや、この街で一番の女にしてやろう』

紅藤様はそう言っていたけれど、本当にそんなことをやってのけてしまう権力と金があったことに驚くしかできない。

ただ、ここまで一気に位が昇格したとなると・・・お姉さま方の嫉妬が、怖い・・・今までの一位の座のお姉さまは、性格が歪んでいらっしゃることで有名だった。

運ばれてきた果物を目の前にして、そう言えば何も食べていなかったことを思い出して、熟れた枇杷に手を伸ばす。

もう一度、自分にさっきと同じことを言い聞かせようとした―――昨夜は夢だったと。

でも夢なら、今の状況の説明がつかなくなってしまって、枇杷を一つ食べきると、ふう、息を吐いて、昨夜のことを、思い出してしまう。

昨夜初めて会った彼に、もっと触れてほしくて、彼の声で名を呼んでほしくて、でも部屋に戻って首飾りの存在で我に返らされて、突然一位の座になって紅藤様としか会わなくてよくなって。




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