華の咲く場所

「ねぇ、君。一晩、いくら?」

その男は、給仕をしている私に、不躾にそう聞いてきた。

話しかけるときに男に握られた腕が気持ち悪い―――そこから腐っていくようだ。

「・・・申し訳ありません。当店ではそのようなサービスは行ってはおりませんので・・・」

「『当店では』ダメなんでしょ?『君』は、どうなの?」

強引な屁理屈を言うこの男、最初から食えない感じはしていたけれど、苦手だこういう男は、気が付いたら、相手の思うつぼにはまっていることが多いから。

「『私』も、受け付けてはおりません。」

「おや、えらくはっきりと言うねぇ?でも、君、それじゃ、困るんじゃないの?」

男は何もかもを見透かすような目で、握っていた手を離した代わりに、ごくごく自然に肩を抱いてきた。

「・・・どういうことですの?」

「君、見たところ、格下だろう?そんなに美しいのに。だから何も知らずに俺なんかに付かされて。」

淫靡な気分にさせる香がたかれたこの空間だから、男も女もこれほど大胆になれるのかしら?

男の上にまたがって、下着くらいしかつけてないような人だっている―――私はそんな気には到底なれはしないけれど。

「あなたがご自分のことを『俺なんか』などと卑下する理由が見当たりませんが?」

「ほう、俺のことをそんな風に言ってくれるのかい?・・・ますます気に入ったよ。」

だがこの男は、こんな安っぽい香に支配されてなどいないようだ。

先程はただただ拒否感を示したけれど、この男の触り方、他の―――女個人ではなく女という性を求めてやってくる客とは違っていた。

違っているとは気が付いていたけれど、そういう客は今までに見たことがなかったから、どう扱っていいかわからず、ついいつもの客と同じような態度をとってしまう。

「気に言って下さったのなら、またいらっしゃって下さいな。私を、贔屓にしてくださいな。」

肩を抱かれた勢いのまま、男の胸に、自分の乳房を押しつけながら寄りかかる。

とっておきの『笑顔』と、媚びたような『猫なで声』、トドメの『上目づかい』をトッピングして。

ここにくるほとんどの男は、だいたいここまですれば次も来る。けれど。




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