華の咲く場所
「別に怒りはしないから、それ、俺に話してみないか?」

「え?」

・・・この人、私を独占したいと言ったのに、私が他の男のことを話すことを許すのか―――なんだか、おかしくて、笑えて来てしまった。

「・・・ふふ、私のことを変といったくせに・・・。貴方の方こそ、よっぽど変ですわ。」

「そうかい?変ではなく、変わっているとは思うんだがね?」

紅藤様の言葉の端々全てが優しいのに安心して、話す覚悟を決める。

「ふふ、・・・私は、決めた人が、いたのです。」



なんだか、自分でこう話し始めてみると、不思議だわ。

あのときから、自分の時間が進んでいないかのような気がしていたのに、今は、すごくすごく遠い昔の話をしているようだ。

心の整理がついたということなのだろうか。

「その人は、遠くからさらってこられた私に、ただ一人だけ優しくしてくれた人でした。」

なぜだろう・・・彼の、顔が、すごく、おぼろげにしか、浮かんでこない・・・あんなにも、近くにあったもののはずなのに。

「たまに・・・お仕事がうまくいっていなかったのか、私のお腹をなぐったり蹴ったりするようなことがあったけど、とても優しく愛してくれたのです。」

「それが優しいというのかは俺には疑問だよ。」

紅藤様は何故か怒ったように私の、もう今は傷も痣もない腹をなでる。

「ふふ、くすぐったいですわ・・・。確かに、そうですわね。私は、何の計画も知らされてはいませんでしたけれど・・・その日、私は、よくわからない人のお相手を、彼に命じられました。」

彼に、他の男と寝ろ、と言われた時は悲しかったけれど、お役にたてるのならいいと、思って私は、素直に引き受けて。

「結果的に、その男は、彼が殺したかった男らしいのです。彼は、私をおとりに使って、男を、男に抱きしめられた私ごとピストルで打ち抜きました。」

今でも思い出すことができる、腕に、肩に感じたあの熱さ。




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