華の咲く場所
「彼がピストルの腕前がそんなにうまくはなかったおかげで、男はほとんど無傷状態、私も撃たれはしましたけれど、急所は外しておりました。

 だから、彼に私の無事を知らせようと、必死で起き上がりました。・・・けれど、彼は、私を抱き抱えていた、自分が殺したかった男に、ピストル一発で、急所を撃たれて、死にゆきました。」

自分が慕っていたお人が死にゆく様を目の当たりにしたのは、私の心にとって、とんでもない衝撃だった。

痛みと衝撃に薄れゆく意識の中で、彼が殺したかった男の声を聞いた―――死ぬな、必ず助けてやるから、と。

どうしてこの人が私を助けることにそんなに必死になるのかしら、自分を殺そうとした相手の女だなんて、死んでしまった方が言いに決まっているのに、と、不思議な気持ちでそれを聞いた。

「・・・どこを撃たれたのだ?」

紅藤様は、自分が辛そうな顔をして訪ねてきた。

・・・お優しいお人ね、あの人よりも、数倍優しい。

「肩と、腕、ですわ。私は、そのあと、どこかの病院に運ばれ、その男が全てを手配してくれたらしく、傷痕はきれいさっぱり消えていました。」

私の言葉に、今は何の跡も残っていない肩から腕を、まるで壊れものに触るかのように優しくなでてくる。

「でも・・・愛したお人の敵に全てを世話された自分が、なんだか情けなく思えたのです。だから、すぐにその病院から抜け出しました。

 ただ、何のやることも見いだせず、最終的に出した結論は、私を愛してくれたお人に、お礼として、仇をとってあげようとしたのです。」

もうその時の心の中はぐちゃぐちゃで、今でもそれを説明することは難しいくらいで、その時の私にとってそれは、ものすごく大きな希望に見えた。

今思うと、とてもさみしくなる―――あのひとは、本当は私のことなど愛してはいなかっただろうから。

ただの駒にしか、思っていなかったのだろう、でなければ、おとりになんて、私ごと相手を銃で打ち抜いてしまおうなんて、思わない。

結局、私が勝手にあの人に恋焦がれて、勝手に身を滅ぼしただけなのだろう。




< 24 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop