華の咲く場所
「・・・誰にそんな媚びの売り方を教わった。」

今までひょうひょうとしていた男が、何故か怒りをはらんだ声音で、人を有無を言わさず従わせるような表情で聞いてきた。

男は何を考えているのか、私の腰に腕をまわし、私が逃げられないようにすると、私の頤に手を添えて、強引に、でもどこか優しく、上向かせた。

わけのわからない懐かしさを覚えながらも、出会ったばかりの男に、どうしてこんな知ったような口をきかれなければいけないのかと、腹が立つ。

私だって、私がわからないのに。

激情に駆られて自分のやるべきことを決めた時とは、もう私は違いすぎて。

「・・・私は、この店の『商品』です。こうして媚びを売らなければ、売り上げが上がらず、いじめは増すばかりです。あなた様に、私の何がお分かりか。」

店に出るときに顔に張り付ける『仮面』が剥がれて、本音が出てしまう。

言い終わったときにはまずいと思ったがもう遅く、もうどうにもならないことに開き直って、「口は災いのもと」なんて先人はよく言ったものよね、なんてどこか他人事のように考えてしまった。

「要するに、それはここに入ってお前が身に付けた処世術か・・・。」

男がどう出るか、開き直った心は面白いものを観察するかのように見ていると、男が不敵に笑った。

「はは!!気に入った!心底お前のことを気に入ったよ!・・・お前を、この店で、いいや、この街で一番の女にしてやろう。」

そう言って私に口づけてきた。

「・・・ん・・・」

いつもだったら、お客がしてくるそういったものを完全に拒否してきたけれど、何故か、この男にだけは、許してしまった。



< 3 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop