華の咲く場所
そうだ、そうだそうだそうだ!

なんで気がつかなかったの私は、こんなにも近くにいて。

尋が殺そうと思って私をおとりとして近付けさせた男は―――紅藤様だったのだ。

今まで、できるだけあの凄惨な記憶を思い出したくなくて、心の奥深く深くに埋めてあったけど、それを掘り起こしてみれば、すぐに確証が取れた。

あの時も思った、不思議な色の瞳だわ、と。あの時も思った、撃った後の銃口を舐めるだなんて変わってるわ、と。あの時もそうだった、優しくでもどこか強引に私の頤に手を添えて上向かされた。

そう、尋を殺した男は、紅藤様なのだ。

最後に尋を見た紅藤様なら、私が気を失った後で尋の懐からあれを探り出すこともできるし、私を病院に連れて行ってくれたのが紅藤様でもその部下の人間でも、どちらかがどちらかをうまく処理しただろう、それにボスを現在張っている人だ、あのころから彼の下に付いている人間は少なくなかっただろう。

今更そんなこと気がついたって、別にどうだっていいはず、だって、私は尋のことを忘れて過ごしてきたのだもの―――でも、今更なのに、今こうして紅藤様に抱かれて眠っていることにも嫌悪感を抱いてしまうのはどうして?

彼が殺人者だと気がついたから?それとも尋を殺した男だと気がついたから―――?

紅藤様は、何を考えて尋を殺したのかしら・・・何を考えて私を身受けしたのかしら!何を考えて私を抱いていたのかしら!今までのこと全て、心の底では私のことを嘲笑っていたとでもいうの?

どうして私に何も言わなかったのかしら、さぞ滑稽に見えたことでしょう、愛する男を殺した男を愛している私のことが。

どうして寝台の近くの、いつも使うようなものの中にあれを隠してあったのかしら、そんなところにあっても私は気付きもしないと馬鹿にしていたというのかしら。
尋、あなたはどうして紅藤様を殺そうと思ったの?

でも、紅藤様はそんな人じゃない・・・本当に?ええ、本当よ、そんな人ではない・・・と思いたい。だって、今までのこと全てがお芝居だなんて、思えない・・・。




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