華の咲く場所
長い間考えていたら、私は、思い至った。

もしかしたら、私は、尋、貴方の思いをついであげることができるかもしれない。

あなたはひどい時があったけれど、でも私は貴方がいたことでとても救われたの、でもその恩返しは何にも出来ていないのよね・・・私は貴方を忘れてしまうことにしたから。

ひどい女ね私も・・・今なら、あなたの想いに報いてあげることができるかもしれないわ・・・。



考えが全然まとまらない。

紅藤様におやすみとあいさつをしてからどのくらいが立ったのかすらもわからなくて、気付いたら周りが明るい気はして、朱蘭、と、尋も呼んでくれなかった名を呼ばれている気がした。

その声を、うるさい、と思った。

私は尋のことを考えているのに、どうして他の男に名前を呼ばれなければならないの、放っておいてちょうだい、もうすぐ考えがまとまりそうなの。



「朱蘭!」

あまりに強く呼ばれるものだから、億劫だったけれどしぶしぶ瞼を開けると、紅藤様が、ものすごく心配そうな顔をして私の方を覗き込んでいた。

「よかった、朝起きたら発熱してたんだやっぱり昨日の夜から様子がおかしかったからな・・・まったく、なんで言わなかったんだ?大人しく寝ていろよ、そうだ何か食べたいものはあるか?」

紅藤様の心からの労わりの言葉が、雑音のように聞こえてきた。

「・・・苦しいのか?」

紅藤様は私の顔に手をやってきて、私の頬から何かをふき取った―――それは私の涙だった。

この男に殺されたのだ―――この人が私を救ってくれたのだ―――そんな2種類の想いが心の中で私を攻め立てた。それが涙を流させていた。

私はどうして涙を流しているの、悔しいの?悲しいの?それとも全く別の理由?その判断すらつかない。

私の髪をなでてくる紅藤様の手に、どうしてもいつものような心地よさは感じられなくて、その代わりに嫌悪感だけが強く残る。




< 36 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop