華の咲く場所
「・・・ゃ・・・」

「ん?なんだ?」

私が無意識に小さく発した言葉に、紅藤様はわざわざ耳を近づけて、一生懸命聞いてくれようとする。

こんな人が、そんなことをするはずはない・・・けれど、尋は殺したのよ。

「・・・いや・・・」

「・・・!」

今度ははっきり私が言っていたことが聞こえたらしい紅藤様は私の言ったことがに驚いたらしく、近付けていた耳を離して、怖い顔をして私を凝視ししてきた。

「どうしたんだ、何が嫌なんだ」

「いや・・・」

「なにかあったのか?」

「いや・・・」

「俺がなにかしたか?」

「いや・・・」

何をいっても私はいや、と答えていた。

何が私は嫌なのかしら・・・それすらも自分ではわかっていないのに、口はその言葉だけしきりにつぶやいていた。

「・・・もういい、一人で寝ていろ」

そんな私に愛想をつかせたらしく、紅藤様は部屋から出て行ってしまった。

ああ、これで、独り静かに考えられる―――そう思った私は、尋がくれた首飾りのことを思い出して、寝台から這い出してたんすの奥底からそれを取り出した。

ほこりっぽい木の箱を開けると、金属がさびたにおいが漂ってきて、中には少し色あせた鍵のついた首飾りがあった。

それを見て気付いて、私はもう一度紅藤様の眼鏡いれの中敷をあけて、尋の持っていた金属の箱を取り出してよくみると、そこには鍵穴があった―――そう、私の持っている首飾りの鍵がぴったりと納まる鍵穴が。

それを見て私はある方向に考えを決めた。

・・・尋が私を愛してくれていなかったなんて、嘘だ。だって、こうして私に、自分の持っているものと対になるものをくれたではないか。

どうして、私は尋を忘れていられたんだろう―――尋待っていて、今、仇を・・・!

・・・だというのに、どうして涙がこぼれ続けるんだろう、全く邪魔な涙、嬉しいのかしら、尋の仇がとれそうで。

私は緩慢な動きで枕の下に手を入れて、そこにあるもの―――ピストルを引きだした。

紅藤様は護身用にといつでもどこにでもピストルを持ちこんでいた。

けれど、「寝室にこんなに似合わない野暮なものはない」といって枕の下に仕舞って、空いた手に煙管を燻らすか、私を抱いていた。



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