華の咲く場所
そしてそれを持ったまま、紅藤様の自室に向かった―――紅藤様の自室はすぐ隣だから、誰にも見つからずにそちらに行くことができた。

『がちゃ』と洋風の作りになった扉を、挨拶もせずにあけると、びっくりしたような表情でこちらを見る紅藤様がいた。

仕事をしていたらしい彼は、先程の怒りなどどこに行ったのというくらい、また私のことを心配してくれた。

「朱蘭、寝ていろと言っただろう?どうしたんだ、普段はこないこの部屋にまで来て・・・しかも、またお前、そんなに泣いて・・・何か怖い夢でも見たのか?」

紅藤様は私の方まで駆けよってくると、寝巻以外に何も来ていない私が冷えないようによ抱き込んでくれた、けれど、嫌悪感は消えない―――どこからこれは来るのかしら。

優しい紅藤様に、一層涙があふれた。私はこれから仇をうつのよ。どうしてそんなに優しくするの・・・お願い・・・もう優しくしないで・・・!

心の叫びが、そのまま涙になった。

「さよう、なら。」

それだけつぶやくと、油断しきっていた紅藤様の腹のあたりに、隠していたピストルの先をあてて、引き金を、引いた。



『どぅん』



鈍く響いたその音に、心の中で何か大切なものも一緒に壊された気がしながら、ずっと止まらない涙をより一層あふれさせる。

引き金を引いた直後、紅藤様は血がどくどくと噴水のようにわき出る腹を押さえながら、私の方に倒れ掛かってきた。

やった。私は、やった・・・!

これで、あとは、この街の闇に逃げ隠れてしまえばいい。この街の闇に戻ろう。

そうすれば、何もかも終わるわ―――体を引きかけた私の腕を、紅藤様が力の加減が利かなかったのだろう、力の限り握ってきた。



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