華の咲く場所
――――――


「・・・は、あ・・・ん・・・!」

「そうだ、もっと、乱れろ。もっと、私の腕の中で喘げ。」

「っあぁん!」



男はそのまま閉店時間まで店にいて、店から支度を済ませて出てきた私をさらうようにして連れて行った。

男は、口では意地の悪いことを言いながらも、とても紳士で、『あの人』よりもうまくて、強引なくせにとてもとても優しかった。

優しい愛撫の隙間に自分を想う。

もう本当に自分のことが分からなくなっていた。

悔しくて情けなくて切なくてどうしようもなくて、こんな人生を歩むことを決めたのに、もう自分の中では、とても冷静にあの時と今の私の心の変化を分析しているのだ。

『あれは一時の激情、若いが故の過ち、悪い夢だったのだ』、と。

でも、どうしても今の人生から離れられずに・・・新しい人生を一人で始めるのが怖くてしょうがなくて、気付いたことには見て見ぬふりを続けていた。

忘れたくても忘れられないほど私の心の奥深くに刻みつけられたあの人の記憶が、私を苦しめ続けた。

そんな記憶があるから過去にとらわれたりするのだ、とわかっていたけれど、忘れられなかったし、忘れさせてくれるようなことも何もなかった。

・・・けれど、私は会ったばかりのこの男に、簡単に体を、心を、許している。

これが、惹かれているということなのか・・・彼なら、あの人を忘れさせてくれるのか・・・新しい人生を始める勇気をくれるのか。



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