華の咲く場所
「あの頃、俺はすでに会社幹部だった。その証の、細かな情報が刻み込まれた指輪があったんだが・・・尋がそれを盗んだのだ。それがないと俺はどう仕様も出来なかったから、尋に返すよう、再三要求した」

彼は眼鏡いれをとって、まず、眼鏡をかけた。

「するとある日、やつが取引をしようだなどと、馬鹿げたことを言ってきたが、俺は指輪を取り返せるならと、罠だということをわかって待ち合わせの場所に行った」

そのあと眼鏡いれに少し彼は力を込めて・・・『ぱこ』という音がした。

「そこには、暗い瞳をしたお前がいた―――実を言うと、俺はその前から、たまたまちら、と見ただけのお前が気になってしょうがなくてね。罠には填まるまいとは思ったが、お前にならはまってもいいだろうと、お前に手を出そうとした。」

なんだかその発言にかぁ、と頬が火照るような気がして、両手で頬を押えていると、意地悪そうな面白そうな顔つきをした彼が、「俺を煽ってどうする」と耳を舐められた。

「そのあとはお前も覚えている通り、俺は尋にお前ごと撃たれた・・・といっても、俺はかすっただけで、ほとんどお前に当たったようなものだったが。

 ・・・目の前が真っ暗になった俺は、何も考えず懐に忍ばせていたピストルで、尋を撃って、俺は尋とは違って腕はいいから、はずすなんてことしなかった。

そのとき尋、とか細い声でお前が呼んだことで正気に戻り、潜ませていた部下を呼びつけ、お前を病院に連れて行った・・・と、同時に、別の部下に、やつの死体を収容しろ、と言いつけた。」

眼鏡いれの中敷を、ゆっくりゆっくり持ち上げながら、最後にはその中敷を全て取り外してしまった。

「お前が一命を取り留めたことを確認した後、やつの体から、指輪らしきものを取り返して・・・死体の始末は、部下に任せた。

 朱蘭を乱暴に扱った男になど、触れたくもなくてね」

その中から、私が見つけたものを取り出した。




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