華の咲く場所
「これがその『指輪らしきもの』。この小箱に入っているのは間違いないんだが、特殊な作りをしているらしくて、中に入っているものを考えると壊すことも出来ず、ずっと開かなかった。
 ・・・結局俺は上司にこっぴどく怒られて、代品を入手した」

それを一回横に置くと、私を強く抱きしめて、どこか震えながら・・・今まで聞いたこともない沈んだ声で話してきた。

「それからいなくなってしまったお前を必死で探して探して・・・やっとあの店で見つけて・・・腹が立った。

 おとりにされた夜は、俺に全く媚びもせず笑いもしなかったのに、その時見たお前は、男にしなだれかかって、媚びを売って。
 
 抱いてみれば、俺に全く集中しようとしなくて・・・抱き終わった後、俺に体を預けてくるのを見て、ようやく独占した気分になれた。
 
 恋焦がれたお前の名を初めて知れた、と嬉しく思っていた矢先に、やっとのことでそこまでいったのに、お前は殺されかかっていて、そのときも、意識なくピストルを構えた。

 そしてお前を身受けする前の夜、お前の話を聞いて、俺がその男だとわかっていないのだ、ということを、はっきり理解して・・・卑怯な俺は、その状況に甘えることにしたんだ。
 
 どんな理由でも、お前を俺のものにできるなら、と・・・でも、その時に、ひとつ決めたんだ。
 
 お前がもし過去を思い出して、俺に復讐しようとしたのなら・・・それを甘んじて受けとめようと。・・・俺は、お前を試していたんだ。」

眼鏡いれを手に取り、軋んだ音を立てるほど、力が込められる。

「これにその指輪らしきものを入れてこんなところに置いておいたのは・・・お前にいつか気付いてもらうため。・・・何も言わずに俺のものしたお前に、全てを俺に預けきってくれるお前に、良心の呵責を感じて、置いた。・・・いつかこれに気付いて、もし俺にそのままついてきてくれるのなら、何も言うまい、もし復讐に目覚めてしまうのなら・・・それを受けよう。そう決めた。

 そしてお前にわざと、枕の下にピストルを隠していることを教えた。―――それで俺を殺してほしかったから。お前が俺を撃ったピストルは、俺が尋を撃ったものだった。そのピストルで撃てば、お前の気も晴れるだろう・・・そう思った。」




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