華の咲く場所
私は、紅藤様にピストルを教えてほしい、と願った。

紅藤様を撃った後で、「あんな所を撃たれたって、死ぬわけがないだろう」と思い切り茶化されたのに少し腹が立って、彼の仕事上自分の身の安全も守れないと、彼と一緒にいられないのではないかという不安を感じたから。

紅藤様は、私に人を殺させるつもりはないと怒ったように言ったけれど、私は人を殺すつもりではなく、私が生きるために紅藤様に習いたいのだ、涙をたたえた瞳で見つめて言ったら、泣かれてはたまらないと、彼は折れた。

そして、尋を撃ったピストルを破棄してからずっと何もなかった枕の下に、新しいピストルを入れるようになって、私が外出した時のために、と、小型のピストルを買ってくれた。

紅藤様はさすが何十何百の部下を従えている人だからというか、人にものを教えるのがとても上手だった。

今までピストルに触ったこともなかった女が、百発百中の彼までとは言わないけれど、百発中八十発は命中できるようになったのだから。

それでもまだ足りないという私に彼は、

「この短期間でここまで撃てるようになった人間を見たことがない。それ以上鍛錬すると俺は遠からずお前にピストルの腕前を抜かれてしまうだろう・・・その技術で生きていくわけではないんだ、そろそろ勘弁してくれ」

と、冗談なんだか本気なんだか判別しにくい表情で・・・でもたぶん本気なのだろうことを言ってきたから、それからはあまり本気で鍛錬をしなくなった。

結果的にそれは役に立った―――彼の下の人間・・・彼が検挙したマフィアが暴動を起こした時があって、彼を苦境に立たせようとしたその仲間に、私が狙われてしまったことがあったから。

その時に、私は私が生きるために、ピストルで人を撃った―――もちろん殺すためじゃなかったからちゃんと急所も外したけれど、その人間がどうなったかまでは分からない。

紅藤様の妻は女だてらにピストルを、それもそこらの男より上手く扱うのだと、恐れられるようになってしまったことは予想外だったけれど、私は紅藤様と一緒に、幸せな日々を続けることができた。





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