華の咲く場所
この人はこの人なりに喜んでくれている、のだから、不安に思うことは何もない。

「ええ、一緒に選びましょう。名前はお任せしますわ、かっこいい、かわいいいい名前をつけてくださいね。男の子か女の子か、どっちでしょうねぇ、どっちでも、すごくかわいいと思うのです。

 もちろん、大変になっても、この屋敷にはたくさんの人がおりますもの、心配はしていませんし、さっきのは、貴方に意地悪をしただけですわ」

・・・一つだけ言われたことに気がかりなことがあったけれど、気付かないふりをしてごまかしておく。

「お前の意地悪はたちが悪い・・・俺を本気で煽って、そのあと度肝を抜かれるような真相を言うのだから」
なんだかげんなりしたように彼は言ったけれど、すぐに楽しそうな表情に戻った。

「愛しているよ、朱蘭」

「私も、愛しておりますわ」

触れるだけの口づけは、今までの何よりも優しかった。



もう、尋のことで、揺らいだりなんかしない、だって私はそんなことで揺らいでいる暇なんてなくなってしまうもの。

たったひとつ、彼に感謝するとすれば・・・紅藤様と私を、引き合わせてくれたことくらいだ。

それを言ったら、「朱蘭の前向きさ加減には感服するよ」と呆れ笑いをされてしまった。



臨月が近付いたある晩、隣で眠る紅藤様に、一つだけ我儘を言った。

「紅藤様、子の名前には、花の名を入れて下さいな」

好きにしていいといったくせに、とは思ったが、どうしてもそうしてほしかった。

彼の機嫌を伺うように言った私の頭を、髪を梳きながら紅藤様は撫でてくれた。

「もちろん?・・・俺の名にもお前の名にも花の名がはいっているのだから、入れないわけがないだろう」

紅藤様と同じ考えをしていることが、たまらなく嬉しかった。








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