華の咲く場所
Ⅱ
「いいな、他の客は、絶対にとるな。」
「わかっております。」
「また夜に来る」
私を店に戻した後、紅藤様はそう言って車で去って行った。
なんだか、夢でも見ているような、足が地面に付いているか確認したくなるような、変なことをしていないか確認したくなるような、浮ついた気持ちだった。
久しぶりに味わうこの感覚が、恋というものだったか―――長い間感じなかった感情に戸惑ってしまう。
私はまだそんなことができるほど、心が残っていたのか・・・そんなことのできる余力は、もう残っていないと思い込んでいた。
思いこんでただけで、できないわけではなかったのだろう・・・私は新しい道を歩むことをまだあきらめなくてもいいのかもしれない。
思案にくれながら、店に与えられた、布団を引けば足の踏み場もなくなってしまうような狭い自分の部屋に入る。
店の女たちが叶わぬ相手に一目ぼれして尽くして尽くして身を滅ぼしていくのを見て、なんて馬鹿なことを、と思っていたのに、これでは自分も同じ道をたどってしまいそうだ。
今までまるで理解できなかった女たちの心情を、少し理解できたような気がした―――別に理解したからといって何かあるわけではないけれど。
これが、一目惚れで、恋なのだ―――そんな甘い気分で、彼に抱かれていた自分の体を抱き締めると、机から、突然かた、と何かが落ちた。
「・・・・・・!」
*
「わかっております。」
「また夜に来る」
私を店に戻した後、紅藤様はそう言って車で去って行った。
なんだか、夢でも見ているような、足が地面に付いているか確認したくなるような、変なことをしていないか確認したくなるような、浮ついた気持ちだった。
久しぶりに味わうこの感覚が、恋というものだったか―――長い間感じなかった感情に戸惑ってしまう。
私はまだそんなことができるほど、心が残っていたのか・・・そんなことのできる余力は、もう残っていないと思い込んでいた。
思いこんでただけで、できないわけではなかったのだろう・・・私は新しい道を歩むことをまだあきらめなくてもいいのかもしれない。
思案にくれながら、店に与えられた、布団を引けば足の踏み場もなくなってしまうような狭い自分の部屋に入る。
店の女たちが叶わぬ相手に一目ぼれして尽くして尽くして身を滅ぼしていくのを見て、なんて馬鹿なことを、と思っていたのに、これでは自分も同じ道をたどってしまいそうだ。
今までまるで理解できなかった女たちの心情を、少し理解できたような気がした―――別に理解したからといって何かあるわけではないけれど。
これが、一目惚れで、恋なのだ―――そんな甘い気分で、彼に抱かれていた自分の体を抱き締めると、机から、突然かた、と何かが落ちた。
「・・・・・・!」
*