華の咲く場所
「私は、誰にも会っていないし、抱かれてもいない。
 私の心には、変わらずあの人が住み続けている。
 私は、紅藤様に『あの人』を重ねていたのだわ、そう、きっとそう。
 『あの人』も、何を考えているのかわからないような人だったし、あまりに店がひどく て、人恋しくなってしまったのだわ。」



自分に言い聞かせるようにつぶやいて、無理矢理、無理矢理、生まれてきていた気持ちにふたをする。

私の心に、鉛でできた冷たいふたをして、鋼鉄の糸で縛って、心の中でも蜘蛛の巣がかかっているような、奥の奥の目立たないところへ隠す。

私は何も気が付いていないの、認めなければ、それが真実になる。

さっきまでは熱く疼いていた、今は冷え切った体を抱きしめて、何度も何度も言い聞かせる。

自分に言い聞かせなければいけないほど、あの男に溺れているなんて、絶対そんなことはない。

男はああ言っていたけれど、あの男以外の客を取らないなんて、許されるわけがないのだ。

店に来ても誰も尽きたがらないところを見ると、そんな上客じゃあないに違いないし、何よりそんなことをすれば、また、お姉さま方にいじめが激しくなる。

確かにあの男の言うように、誰か権力のある方にでも抱かれてしまえば、いいのかもしれないけど。

私はそれをしないから、店の中での地位が上がるわけもないというのが、現状。

そしてそれでいいとあきらめたのが、私。



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