【短編】今夜、きみと最後のキスを
あんな出会い方をしたせいか、彼の方もあたしを覚えていたみたいで。

お父さんのお見舞いが終わった後、彼と会うと話しをするのがいつの間にか習慣になっていた。



「嘘ばっかり。いたずらばかりで困るって小川さんが言ってたよ」


小川さんは彼の担当医のうちの一人。


まだ研修医らしく、彼と歳が近いこともあって、医者と患者というよりはまるで兄弟みたい。



「だってつまんないんだもーん」

「だもーん、って……」

子供みたいな口ぶりに、あたしは小さく肩をすくめた。



お医者さんや看護師さんと話してる時はやんちゃな顔。

小児科の子供たちと遊んでる時はお兄さんの顔。


直樹くんは色々な顔を持っていた。


どれが本当の顔なんだろう……。

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