【短編】今夜、きみと最後のキスを
それから、あたしは初めて、彼の病気のことを知った。


聞いている間ずっと、手の震えは止まらなかった。


もし、直樹くんがこのまま……。




「どうして屋上に?」

あたしを落ち着かせようとしてるのか、小川さんの声は優しい。


「……直樹く、が……デート……」


「そっか。……里佳ちゃんとデートしたかったんだね。──最期に」

「……っ」


震える手で小川さんの白衣を握り締め、力いっぱい首を横に振った。



最後なんかじゃない。

最後なんていやだよ。

今度は外でもデートするって。



一緒に海行くって、約束したんだから──……。


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