【短編】今夜、きみと最後のキスを
すっかり勢いをなくしてしまったあたしは、その場にぺたんと座り込んだまま力なく首を振った。


「……ちがうの……」



彼は、そんなあたしの手をつかんで立ち上がらせた。


「どこか怪我してない? 大丈夫?」

立ち上がると、あたしより少し背丈の高い彼は、あたしの顔を覗き込んだ。


「……だいじょう、ぶ」


小さく頷くと、彼は安心したようににっこりと微笑んだ。



──なんだか、とても落ち着く、柔らかい笑顔をする人だと思った。

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