花の家
そんなことは香里も分かっているが、腹が立つものは立つ。

いつのまにか、つま先立ちになって、邪魔な多郎の腕を払おうと必死になり始めていた。

「姉さん、転ぶだろう、危ないから!」

 多郎は、香里の攻撃をよけながら、左手で壁を探っている。

「多郎ちゃんが、手をどければいい話じゃない!」

 いつもなら、しょうがないな、と苦笑しながら譲る多郎なのに。

目を隠した手の力はゆるまない。

なんだか泣きたい気持ちになった。

 そうしている内に、多郎の左手が目的のものを見つけだす。

ぱちり、という音と共に、暗い廊下に人工的な光が満ちた。

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