花の家
蛍光灯の光は、暗さに慣れた目には眩しすぎる。

目一杯、背伸びしていたために、香里はバランスを崩して、つんのめった。

転ぶまいと、目の前の体に、しがみつく。

「だから、危ないって言ってるだろう」

 支える腕は、怒りの矛先なだけに居心地が悪い。

「放してよ」

 しがみついているのは、こっちの方なのに、多郎はごめん、と謝った。

いつもの多郎だ。

視線を上げれば、優しい焦げ茶の目が、こちらを見ている。

なんの異常もない、いつもの目が香里を見ている。

< 106 / 274 >

この作品をシェア

pagetop