花の家
「ほら、姉さん、朝風呂に入るんだろ?」

 話は、ここで終わりだと言うように、多郎は香里の体を風呂場の方に向けさせた。

回れ右させられた上、背をぽん、と押されて、香里は何も言えなくなる。

わたしの口が、もっと上手ければなあ、と香里は思う。

そういうのが得意なのは鈴の方で、気づけば秘密を聞き出されていることも、しばしばだ。


目が黒く見えたのは、気のせいだったのだろうか。

本当に?

真実を聞くのは、怖い気もしたから、これでよかったのかもしれない。

こうして香里は、平穏な日常のぬるま湯から出ようとしない。


温室育ちの花は、いまだ外の冷たい風を知らない。
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