花の家
 多郎の目があっては、玄関に直行……というわけにもいかなくなって、風呂場に入る。

でも、コートを羽織った姿を見ながら、朝風呂だと信じてくれるなんて。

 ほんとに寝ぼけてたんだなぁ、多郎ちゃん。

 助かったと、普段なら有り得ない、失態を思って顔をゆるめた。

 だが、多郎はおとなしく布団に戻ってくれただろうか。

もし廊下をうろついていたりしたら、玄関から外へ出るのは絶望的と言っていい。

 窓から出るしかないかな。

 思うが早いか、洗濯機の上に干してあったスニーカーを、窓の外へ放る。

靴の着地音を聞くと、浴槽の縁に足をかけ、窓枠を掴んだ。

そこへ、じたばたと体をねじ込む。
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