花の家
「ああ、でも、もう要らないかな」

 揚羽は、おどおどする香里に気づかないのか、まだ首を捻り捻りしている。

「え、なんで? さすがに私服はいるでしょ」

 いくらなんでも、ずっと制服の訳にはいくまい。

新しい服を買うにしても、この村じゃ流行りのものなんて売ってない。

変なシャツを着ている揚羽を想像して、香里は複雑な心持ちになった。



「だって、もう咲くから。もう必要ないと思うんだ」


 揚羽は、とびきり嬉しそうな顔で笑う。

その言葉の意味は、分からない。

でも揚羽が、よく分からないことを言うのは、今更のことだった。

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