花の家
 約束の場所だなんて、なんだか大げさ。

てふ塚なんて、ただの石だって言ったのに。

 強く手を引かれて走り出す。

 風が冷たい。

見れば、揚羽はコートも羽織っていない。

大丈夫なんだろうか、と耳に冷気の痛みを感じながら思う。

「ちょっと、待ってよ、揚羽くん」

 息が上がってしまう。

 吐く息が白い。

「嫌だよ。もう十分、待ったもの」

 いつ、待ってくれたと言うのか教えて欲しい。

 香里は、ついに足がついていけなくなって転んでしまった。

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