花の家
初めに見えたのは、影だった。

中空に浮かぶ、大きな逆三角の影だ。

霧が風で流れると、その実体がのぞく。


「……な、に、アレ」

 やっと搾りだした声は、かすれていた。

「何って、香里は見たことないの? 《アリ》っていう虫だよ」

 まるで電車に乗ったことのない、お嬢様にでも会ったみたいな驚きよう。

「違っ、アリじゃないよ……あんなのアリじゃない!」

 あんな大玉転がしの、玉ほどもある頭!

しかもソレには、頭しかなかった。

霧の中に頭だけが、ぽっかりと浮いている。

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