花の家
「違うって言われても……。《アリ》以外の何に見えるっていうのさ」

 触角でしょ、丈夫な顎があって、と指をさして確認する揚羽に香里は言葉もない。

揚羽の指さし確認は、トゲつきの脚に、まで来てやっと止まった。

「ああ、体が見えないから驚いてるの?」

 もちろん、それだけではないが、香里は何度も頷く。

少しでも自分の戸惑いを理解してくれたなら、幸いだ。

「あいつらは程度が低いから、上手くこっちに来れないんだよ」

 体は、あっちの森にあるんだろうね、と事もなげに言う揚羽に、香里は身を硬くした。

 あっちの森に……?

 香里の脳裏に、教室で紛れこんだ《ありえない森》が広がった。

 揚羽くんは、あの森を知っているの?

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