花の家
「だから、ちゃんと脚もあるから安心してよ」

 アリの怪物を前にして、何を安心しろと言うのか。

まったく分からないが、揚羽の微笑みは至って穏やかだ。

香里も、あまりの非現実に悲鳴を上げ忘れている。

それを思い出したのは、揚羽の後ろに、驚くべきものが現れたからだった。


話題の《脚》だ。


霧しかない空間から、突如として昆虫の脚が現れたのだ。

脚を覆う棘は鋭利で、揚羽の身など、たやすく引き裂いてしまうだろう。


「いやああああ……ッ!」

 甲高い悲鳴が、朝の空気に響いた。

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