花の家
 声に反応したのか、巨大アリは目標を変え、香里の方へ食指を伸ばし始める。

「まったく、空間を突き破って出てくるなんて、乱暴すぎるよ」

 香里の叫びに混乱をみせる訳でもなく、揚羽は腕を振り上げる。

「大体、僕のものを横取りしようなんて、いい度胸だよね」

 そして、掲げたその手を勢いよく振り下ろした。


 風が唸る。


 見えない胴から離れた脚が、宙を飛ぶ。

 斬り放された《アリ》の脚は、透明な体液を散らしながら地に落ちた。

「ひぃ……っ!」

 今、揚羽は何をしたのだろう。

直接触れてはいないのに、昆虫の巨大な脚は切り落とされて転がっている。
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