花の家
「ほら、香里が怖がってるじゃないか。可哀想に」

 揚羽は、自分の行動が恐怖を生んでいるとは微塵も考えないらしかった。

半目で《アリ》の頭を非難がましく見る。

だが、すでに向こうも危険を感じ始めていたらしく、撤退を開始していた。


霧と混じり合うように、逆三角の頭の影は薄くなり始めている。

 あっちの森へ帰ろうとしてるんだ、と分かった。

「逃がさないよ。香里を食べようとした代償は払ってもらう」

 揚羽は微笑みながら、指揮者が構えるように腕を上げる。

振り下ろせば、また刃となるのだろう。

それは香里にとって、堪えがたく感じられた。

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